この夢はどんな時も笑っているよ

某所でホームレスなど生活困窮者の支援をしている人間のブログ。

マルチ商法にハマる56歳女性

現在、行方不明になっている被支援者がいる。

6年ぐらい前に市役所から依頼を受けて、支援を開始した。しかしこの女性、交通事故で頭を強打して以来、高次脳機能障がいになってしまい、その後遺症故に、非常に支援が難しかった。

 

マルチ商法にハマる。水素水3リットルを4万円で買ったり(しかもこの代金を支払えず、販売側から督促の手紙が来たのだが、その手紙には相手の住所が書いていなかった)。この女性は、うちと知り合って以来、ずっと派遣で仕事をしていたが、収入が少ないため、生活保護も同時に受けていた。しかしマルチ商法に次々とハマるため、保護費支給日に金がほとんど無くなるという有り様だった。サラ金に金を借りたこともあり、厳しい取り立てがアパートに来たこともあったらしい。

僕らもいろいろ説得するが、ヒステリックで声を荒らげ、ディスカッションにならないこともしばしば。家に閉じこもりこちらに抵抗したので、家に行って事務所に来るよう説得した時は、警察を呼ばれ、一悶着があった(警察呼ばれて困るのはどっちだよ)

半年前に、どこから聞いたのか、国は生保受給者に新薬実験をするから、生保はいらないと言い出し、説得も功を奏せず結局保護廃止へ。しかしすぐにアパートの家賃すら払えない状態になった。

 

生活困窮者を支援している我々が、被支援者を困窮させるわけには行かないので、外に出てきたところを事務所に連れて行き(今回は警察を呼ばれなかった)、今後どうするかを本人を交えて話し合った。

 

本人は、新薬実験をされるから医者に絶対行かないといいつつ(笑)、生保申請を一度は受諾。またマルチに引っかからないように、携帯電話を取り上げようとした。銀行口座を見る限り派遣の仕事に入っていないようだし、またマルチに引っかからないようにするにはこれしかなかったからだ(そもそもガラケーなのに月々の携帯代が1万円前後も行っており、携帯代自体が生活再建の足を引っ張っていた)。これを聞いたところ、彼女は激怒。アパートを出て行き、金輪際うちとはかかわらないと啖呵を切った。

 

こちらも最後は折れると思われ、甘やかす訳にはいかないから、じゃあ出て行けと応酬。内心では明日朝再度、説得をしようと思いながら。彼女が事務所を出て行ったのは、午後10時。説得から4時間経っていた。

 

翌朝、彼女のアパートを訪ねてみると、彼女は本当に出て行っていた。付近を捜索すると、最寄りの駅にいるとの情報をつかむ。急いで駆けつけると、駅の構内で大きな声で携帯ドロボーとこちらを罵倒し、駆け出し、改札を通って行った。それ以来、音信不通。

もぬけの殻となった彼女の部屋に入ってみると、こちら側が知らない銀行口座に20万円前後の金が入っており(派遣の仕事の給料をこちらに無断でこちらの口座に入金させていた)、また新興宗教のパンフレットがたくさん散乱していた。あぁ、彼女はマルチばかりじゃなく、宗教にもはまっていたのか。

 

口座に結構な額の金があることから、路上生活状態にはなっていないはずだが、とりあえず1日数回は、彼女の携帯に電話するようにしている。

 

このケースの問題は、彼女の抱える問題は、高次脳機能障がいという障害が原因であるということ。それまでは良き母であり、子供を3人も育てた。しかも障害の発端となった交通事故は自動車を運転してる側の過失が大きいそうだ。ある日突然、不幸に見まわれ、正常な考え方ができなくなり、家族にも見捨てられ、ウチに来たわけだ。

 

いくら僕らのことを泥棒と罵っても、彼女の素の心から出た言葉でないと思っているから、また帰ってきて欲しいし、彼女のことが心配である。

 

先日はこちらも雪が降った。彼女はちゃんと暖かい部屋にいるのだろうか?